Research
近年、環境・エネルギー問題の解決と持続可能な社会の構築が望まれる中、太陽エネルギーの利用が社会から期待されている。 本研究グループでは、化学的な手法により機能を付与したナノカーボン材料を創出・駆使し、高機能な有機光電変換素子を創製する研究開発を行っている。 我々の研究は、有機化学、無機化学、物理化学、応用物理学にまたがっており、研究メンバーは、互いに議論しながら、分野横断的に研究を進めている。
太陽電池などによる自然エネルギーをより多く獲得することは,美しい地球の環境を保全していくにあたり,今世紀の研究者にとって大きな研究課題となっている.
遅くとも今世紀の終わりには,太陽光発電が主たるエネルギー創出源となり,太陽電池が発電していない時間帯の電力を火力発電などで補う未来が期待されている.化石燃料などの限りある資源はできるだけ化学資源として活用され,電力などは太陽のエネルギーを直接的または間接的に活用して生み出される社会が思い描かれている.そのような時代背景のもと,今世紀,太陽電池の研究が活発に行われている.用いる材料やデバイスの構造を研究しエネルギー変換効率を上げることはもとより,実用化のための安定性向上や低コスト生産を念頭においた研究も多く行われている.
カーボンナノチューブ薄膜透明電極を用いた太陽電池に関する研究
太陽電池へのカーボンナノチューブ薄膜透明電極の研究開発
カーボンナノチューブ(CNT)を用いた透明電極の開発は、太陽電池や他の光電子デバイスの基板材料に関連する重要な研究である。有機太陽電池やペロブスカイト太陽電池の基板には、通常、酸化インジウム錫(ITO)が使用されている。しかし、ITOは希少金属であるインジウムを含んでおり、高価であるため、大面積化やフレキシブルな太陽電池の製造には課題がある。我々の研究室では、CNT基板の開発には、気相成長eDIPS法を使用して、CNT薄膜透明電極を作製している。
乾式プロセスでは、CNTの成膜を行うために浮遊触媒・気相濾取法を使用し、CNTの固体回収の必要がない。これにより、CNT薄膜透明電極を直接フィルターの上に形成することができる。
湿式プロセスでは、高結晶性で導電性が高い名城eDIPS カーボンナノチューブを使用し、導電性のある界面活性剤を用いてCNTを分散させ、スプレーコートによって薄膜を作製している。これにより、より柔軟でコスト効果の高い透明電極が得られる可能性がある。
この研究は、太陽電池技術の進化や新たなエネルギー変換デバイスの開発に向けて、希少金属を使用せずに持続可能な基板材料を提供する可能性を持っている。また、フレキシブル性に優れた材料は、様々な応用分野で利用される可能性があると考えている。
CNT薄膜の乾式プロセスを使用して得た裏面電極は、従来の高価な材料である金や銀と同等の機能を提供する可能性があり、さまざまな太陽電池デバイスにおいて有望な代替材料として使用できることが示唆されている。CNT薄膜を裏面電極として使用することは、高価な金や銀に比べてコスト効果的で、かつ環境に優しい選択肢となる。この代替材料により、太陽電池の製造コストを削減できる可能性がある。我々の研究室では、乾式CNT薄膜電をモジュール化した有機薄膜太陽電池に適用することで、高い開放電圧の実現に成功している。これは、CNT薄膜の優れた導電性と透明性によるもので、太陽電池の性能向上に寄与している。シリコン太陽電池やペロブスカイト太陽電池などの様々な太陽電池デバイスに適用できるため、これらのデバイスの開発にも有望である。特に、簡易的に転写できることからシリコン/ペロブスカイトタンデム型太陽電池において、高性能な中間電極や裏面電極として利用できる可能性がある。
環境に配慮した製造とコスト削減の観点から、CNT薄膜を太陽電池デバイスに組み込む研究は重要である。この技術が実用化されれば、太陽光発電の普及と持続可能なエネルギーの発展に期待できる。
湿式プロセスによるCNT薄膜のスプレーコートが、柔軟なパターンでの塗布に適しているということは、光電子デバイスの設計と製造において多くの可能性を提供している。CNT薄膜は導電性と透過性の両方の要件を満たすため、有機太陽電池やペロブスカイト太陽電池の下部電極として有望である。湿式プロセスによって異なるパターンでCNT薄膜を塗布できることから、デバイスの設計と効率向上に役立つと考えている。CNT薄膜の導電性向上は、太陽電池の性能を向上させるために重要であるため、研究室ではドーパントとしてカーボン材料を含む物質をCNTに導入し評価を行っている。これにより、CNTの電子状態を調整し、導電性を向上させることが可能である。PET(ポリエチレンテレフタレート)基板にCNTを直接スプレーコートすることにより、柔軟な太陽電池の開発に取り組んでいる。このアプローチにより、太陽電池を曲げたり折りたたんだりすることが可能で、フレキシブルな電子デバイスの製造に寄与する。
これらの取り組みによって、持続可能なエネルギー変換技術の向上と、フレキシブル電子デバイスの発展に貢献する可能性が高まる。湿式プロセスを使用することで、柔軟性、コスト効率、および製造の柔軟性が向上し、幅広い応用分野での活用が期待される。
次世代CNT薄膜透明電極を用いた新しい太陽電池の研究開発
CNT薄膜をボトムとトップの両方に使用するアプローチは、太陽電池の効率向上に向けた重要なステップである。これにより、より多くの光を吸収し、効率的な光電変換が可能になる。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の異なる特性を理解し、それらを組み合わせた積層構造の太陽電池の開発に挑戦することは、効率的なエネルギー変換のために重要である。異なるCNTの特性を組み合わせることで、光吸収スペクトルや電荷移動特性の調整が可能になる。SWCNTにn型半導体またはp型半導体となる物質をドープすることや、有機半導体色素を導入することで、CNT太陽電池の光電変換特性を向上させる研究が行う。これにより、電子の伝導やキャリア分離が改善され、太陽光からのエネルギーをより効果的に捕捉できる可能性がある。
「カーボン系太陽電池」の開発は、従来のシリコン太陽電池と比較して軽量で柔軟性があり、環境にやさしいエネルギー変換デバイスを実現するためのスリリングな取り組みであり、我々の研究グループではナノカーボンを中心に太陽電池の研究開発に挑戦している。
真空蒸着が可能なフラーレン誘導体による
ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上と有機光ダイオードへの応用
真空蒸着が可能なフラーレン誘導体の研究開発
フラーレン誘導体の合成とそれを利用したさまざまな応用は、有機エレクトロニクスおよびエネルギー変換技術において非常に重要である。
フラーレン(C60)自体は有機半導体として重要であるが、化学的修飾を施すことでその特性を調整し、さらなる用途に適した材料を作成することができる。我々の研究グループは、有機物を取り付けたフラーレン誘導体を合成することに成功した。特に、昇華温度を下げることで昇華精製が可能なフラーレン誘導体の設計と合成は、成膜プロセスの改善に寄与する。また、光エネルギーの収集と電子の伝達が改善され、太陽電池の性能が向上した。
フラーレン誘導体を用いたCNT有機系太陽電池の効率と耐久性の向上は、持続可能なエネルギー変換技術の進化に寄与します。また、大面積・フレキシブルな有機光ダイオード(OPD)の開発にも取り組むことで、エネルギー効率の高い照明やディスプレイ技術の発展に貢献する。これらの取り組みにより、フラーレン誘導体の設計と合成は、エネルギー変換技術と有機エレクトロニクスの分野で新たな可能性を切り拓く。
ナノカーボン材料を駆使した固体高分子形燃料電池の耐久性と
性能向上に関する研究
燃料電池の耐久性向上に向けた
フラーレン誘導体ラジカルクエンチャーの研究開発
水素と酸素から発電する固体高分子形燃料電池(PEMFC)は、クリーンなエネルギー源として、自動車への搭載や家庭用電源として実用化が進んでいる。しかし、PEMFCに用いるナフィオン膜の耐久性に大きな課題があり、普及への足掛かりとなっている。原因の一つとして、膜中にリークするクロスオーバー水素とクロスオーバー酸素によって発生するラジカル種による化学劣化が挙げられる。PEMFCの耐久性向上のためには、ナフィオン膜へのラジカルの攻撃をいかに防ぐかが鍵となる。
我々の研究グループでは、ナフィオン膜の劣化を防ぐラジカルクエンチャー(捕捉剤)として、フラーレンC60に着目している。C60がラジカルクエンチすることで生ずる水酸化フラーレンがクロスオーバー水素により還元され、π共役系が再生することで、持続的にラジカルクエンチできると考えている。このコンセプトのもと、ナフィオン膜に高度に分散することができるフラーレン誘導体を設計・合成し、添加剤として利用することで、高耐久性燃料電池の実現を目指している。
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用いた
高性能・高耐久性の燃料電池の研究
燃料電池膜(PEMFCs)は、その高い効率と低い排出量から、持続可能なエネルギー変換技術として有望視され、化石燃料への依存を減少させることが期待されている。しかしながら、白金(Pt)触媒およびその担持材料の耐久性は、次世代PEMFCsの開発において依然として主要な課題である。カーボンナノチューブ(CNTs)は高導電性、高多孔性、高耐酸化性などの優れた特性を持つことが知られており、PEMFCsの触媒の担持材として有望視されている。CNTsの高導電性と多孔性は、PEMFCの性能向上に寄与し、その高耐酸化性と不活性の表面は耐久性を向上させる。
私たちは、さまざまな形状やサイズ、構造などを持つ金属ナノ粒子を合成し、特に単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を触媒の担持材として利用し高性能と高耐久性の両方を備えたPEMFCを実現することを目的としている。具体的には、2040年頃のNEDOロードマップで提示されているPEFCの超高効率化、超高出力化、高温・高電位環境での超長期の耐久性確保を鼎立させうる①触媒材料、②触媒担体材料、触媒層構造を創出し、科学や産業の両面を重視する研究を行う。
押圧により吸収色が変化する力色分子の合成,物性,
薄膜デバイス応用開発
メカノクロミック材料の基礎研究開発と応用
これまでメカノクロミズムの研究では、主に発光色の変化について議論されてきたが、それは定性的な議論がほとんどであった。それに対し、吸収色を変化させるメカノクロミック分子を開発し、構造有機化学と機械工学の境界領域の研究を実施して機械的圧力と色の変化を数値で議論する定量的な研究を行ってきた。そこで我々の研究室では、機械的応力(押圧)により吸収色(見た目の色)を変えるフルオレニリデン-アクリダンとよぶ力色分子(力を色の変化に変える分子)を発見した。色の変化は、一次的には混みあった四置換アルケンの二つの立体配座に関連する。押圧により折れ曲がり型からねじれ型への立体配座へと変化する。ねじれ型の立体配座において、電子ドナー部位から電子アクセプター部位への電荷遷移吸収があり、これにより濃い緑色を呈した。折れ曲がり型、ねじれ型の両方の立体配座の単結晶X線構造解析に成功し、ねじれ型配座における電荷遷移吸収の理由を明らかにした。また二次的には、繊維やポリマーのネットワーク構造の空孔中、力色分子の集合体の押圧による破砕と、熱や溶媒分子との接触による分子集合体の再生が、可逆的な色の変化の鍵であることを明らかにしてきた。このことにより,以前から期待されていたメカノクロミック材料の製品応用に道筋をつけた。これらは今後のメカノクロミック材料の基礎研究の指針を示すものである。